その夜主人公は、秋の冷たい雨が降り続く中、黙々と家路を急いでいた。
気の乗らない合コンに付き合い、終電を乗り逃し、
友人の一人にホテル代を貸したおかげでタクシーにも乗れず、
ずぶ濡れになって歩くしかなかった。
ようやく見慣れた光景を見えた辺りで、主人公はふと、
物音を聞いたような気がした。
酒屋の裏の小道。覗き見ると、一人の女性がしゃがみ込んでいる。
主人公の呼びかけに振り向いた彼女は、東南アジア系の浅黒い顔立ち。
額からは血が流れている。
放っておけなくなった主人公は彼女を背負い、自分の部屋へ連れていく。
人心地ついたところで名前を聞いた主人公に、
彼女はマリアと名乗る。
出身はたぶんフィリピン。
「・・・・・・たぶん?」
マリアはどうして雨の夜にあんな場所にいたのか、まるで思い出せないという。
手がかりを求めてマリアの荷物を調べてみると、
二枚の写真、カセットテープや化粧品、現金のほかに一丁の拳銃が出てくる。
驚いた主人公。
混乱状態のマリアに、どういう言葉を掛けていいのかわからない。
とりあえずその晩は彼女を休ませ、明朝主人公はバイトに出かけた。
多分マリアはいなくなっているだろう。
そう思いながら帰宅すると、部屋の中は綺麗に掃除されていて、見る限り誰もいない。
だが、突然トイレの中から音がして、マリアが出てくる。
「だって、行くトコないもの」
こんなふうにして、主人公とマリアの同居生活が始まった・・・・・・。